エピローグ ぜんりゃく。さとりさま、お元気ですか? わたしはあいかわらず元気です。元気すぎてバカはカゼひかないってよくからかわれます。 バカって言われるのはくやしいので、こんどヤマさんにたのんでカゼひかせてもらおうと思います。 さとりさまからもおねがいしてください。 わたしはいま、配達をまかせてもらえるようになりました。毎日朝はやく起きて新聞をくばります。 お姉さまのやくに立てるようになってちょっとうれしいです。 「おーっす、霊烏路!配達の帰り?」 「あ、ほたてさん、こんにちは」 「ほたてじゃないわ。はたてよ、は・た・て!」 この人はお姉さまのシンユウの姫海棠はたてさんです。 わたしはよく名前をまちがえて怒られてしまいます。でも名前をまちがえなければやさしいせんぱいです。 「そうだ、霊烏路、人里においしいスイーツの店ができたのよ。これから一緒に食べに行かない?」 「ごめんなさいはたてさん、これからゲンコウを取りに行かなきゃいけないんです」 「ああ、秋色先生のとこか。じゃあ仕方ないわね」 「すみません、また明日にでもいきましょう」 「あやまらなくていいよ。秋色先生の小説は私も楽しみにしてるしね」 はたてさんもあきしき先生のファンです。きっとさとりさまと話が合うと思います。いちど会ってみるといいと思います。 「ところで、すいーつってなんですか?」 「あんたねぇ、知らずに返事したんかい!要はお菓子のことよ」 「おかし!だいすき!」 「でしょ?文にヒミツで二人でいこう?」 「お姉さまもつれてってあげましょうよ」 「えー?あいつはあんみつとか団子とか、そういうババ臭いやつしか食べないからなぁ。……あ、犬走だ」 「ほんとだ、手をふっていますね」 「スカート抑えないと覗かれるわよ」 犬走椛さんははくろう天狗です。まじめで頭のいい人です。 「はたてさーん!お空ちゃーん!サバクヒタキは日本にも定期的に渡ってくることが確認されたみたいですよー!」 「どうでもいいわそんな情報!」 「そういえばもみじさん、地獄烏のロンブンがガッカイシにのったらしいですよ」 「え、マジ?それってあんたのストーキングの記録なんじゃないの?」 「うにゅ?」 「はあ、ストーキング記録が学会誌に載るなんて、学者はほんと何考えてるかわかんないわね」 もみじさんはときどきわたしのことをじろじろ見ます。そういう時はちょっとこわいです。 「さてと、私はまっすぐ帰るからここでお別れね」 「え?どうしてですか?」 「原稿取りに行くんでしょ?しっかりしなさい」 「あ、そうでした。ありがとうございます」 わたしはまだちょっと忘れっぽいので気をつけたいと思います。 「こんにちはー、あきしき先生」 「あらお空ちゃん、いらっしゃい。原稿はもうできてますよ。あがって行ってくださいな」 「おじゃまします」 この人は秋色長女先生です。新聞にさとりさまの大好きなショウセツを書いてくれる人です。 「あきしきながめ」というのはペンネームです。あ、ファンレターは文々。新聞社までお願いします。 「あきしき先生、これファンレターです」 「まあまあ、いつもありがとうございます。ああ、獄炎靈殿参眼ちゃんね。この子はいつも感想くれるから嬉しいですね。先生頑張っちゃうゾ☆って伝えておいてくれますか?」 「わかりました。☆のところまで忘れずに伝えておきますね」 「どれどれ。……ふーん、参眼ちゃんも妹で苦労してるのね。うんうん、姉って大変よねぇ。ああ、でもあっちはうるさくないのか。それはちょっと羨ましいなぁ」 「……」 「……へぇ、ペットが発情期でうるさい。美少年に脳内変換すればいいんじゃないかな」 「先生、あの、ゲンコウください」 「あっ!ごめんなさい、忘れてたわ!」 先生はわりとおちゃめです 「はい、どうぞ」 「いち、にい、さん……先生、これ多くないですか?」 「もうすぐ秋だから、その期間の分を余分に書きためておいたんです。仕事が始まっちゃったら原稿書いてる暇がなくなっちゃいますからね。文さんには少しずつ使うように言ってくださいね」 「わかりました。先生おつかれさまです」 先生は秋になると他のしごとでいそがしいそうです。 でも秋以外の季節はにーとになってしまっていたのでショウセツを書き始めたんだそうです。 「おじゃましましたー」 「はい、お燐さんやヤマメちゃんにもよろしくね」 先生のところを出るときはゲンコウのことで頭がいっぱいでいつもサインをもらってくるのをわすれてしまいます。 いつかさとりさまにあきしき先生のサインをあげたいです。 あきしき先生のゲンコウをうけとった後は家に帰ります。 わたしが一人でできる仕事はこれでだいたいおしまいです。 取材とか新聞のゲンコウ書きとかはまだお姉さまといっしょじゃないとやらせてもらえません。 でも、わたしは早くしごとをおぼえて、一人前になったらきっとちれいでんに戻ってきます。 そして、地下ではじめての新聞記者になりたいです。 「うにゅう、おなかすいたなぁ。早く帰らないと」 「ちょっ、あんた、どこ見て飛んでんのよ!」 「うにゅう!す、すみません……」 「あっ、射命丸のところの地獄烏じゃん。新聞読ませてよっ♪」 空をとんでいると、よくだれかに話しかけられます。 この人は比那名居天子さんです。えらい人らしいですが、そうは見えません。 会うときはいつもヒマそうにしています。にーとなのかもしれません。 「ごめんなさい、もう全部配達しちゃって持ってないんです」 「そうなのかぁ。残念ねぇ。あれ暇つぶしにはちょうどいいんだけど」 てんしさんはお姉さまの新聞を楽しみにしてくれているめずらしい人です。 「定期購読しないんですか?」 「あんた、天界まで配達できないでしょうよ。まあいいや、霊夢のとこにでも行って読ませてもらうから」 文々。新聞の配達範囲は人里から地底までです。読みたがっている人にわたせないのはちょっとくやしいです。 「それならば、こんどから一部のこしておくことにします」 「え?いいの?ありがとう。でもあんた忘れちゃうんじゃないの?」 「うにゅっ!そんなことありません!」 「はいはい、期待しないで待ってるわ。ところで火焔猫は元気?」 「はい!とっても元気ですよ。私が新聞持って行くとよろこんでうけとってくれます」 「そっか。仲良さそうでよかった。やっぱりここがちがうのかな。はぁ……」 てんしさんとはおりんのことでよく話をします。 すごくうれしそうに話してくれるのですが、でもその後自分のむねをおさえながらわたしのむねをみてため息をつきます。 なにかついているのでしょうか? 「うにゅう……」 「ん?お腹が空いているの?仕方ないわね、この桃ちゃんをあげよう」 「うにゅ!」 そしていつもももをくれるのですが、てんしさんのくれるももはおいしくないので、わたしは持って帰ってお姉さまにあげます。 お姉さまは気にしないで食べてくれるからです。 「よし、気をつけて帰るのよ。火焔猫にもよろしくね」 「はい。たまにはおりんにも会いに行ってあげてください」 「さすがに天人の身で地獄へはちょっといけないんだ。ごめんなさいね……」 てんしさんはおりんと友だちらしいのですが、あえないらしいです。友だちと自由に会えないのはつらいと思います。 いろいろな人と話していると、世の中ってむずかしいなって思います。 わたしは、まだ世の中のことをよく知らないけれど、お姉さまといっしょにいろんなものを見て、いっしょに考えていきたいです。 「お姉さま!ただいま!」 「おかえりなさい、うーちゃん」 そしてこの人が、私の大好きな射命丸文お姉さまです。